手軽に買えても、気軽に使うべきではない“市販薬”

【手軽に買えても、気軽に使うべきではない“市販薬”】

 

◆市販薬を大量に服用すると、依存症になる

 

 “オーバードーズ(OD)”という言葉をご存じでしょうか。
 ODとは、風邪薬や咳止めなどの市販薬を、使用量(dose)を守らず大量に(over)摂取することを言います。2016年頃から、市販薬の過剰摂取で救急搬送される人が増えています。

市販薬の乱用 10代の間で急増
https://www.nhk.or.jp/kenko/atc_1349.html

 

 中でも問題になっているのが、過剰摂取者のうち、10代、20代が8割を占めていることです。2022年に救急搬送された10代の薬物乱用者のうち、実に65.2%が市販薬を使用するまでになっています。

 ODには依存性があり、しかも覚醒剤などと違って、市販薬はどこででも手に入れることができます。
 最近、薬局で風邪薬などを複数個購入しようとして、店員に止められたことはないでしょうか。あれはOD対策として、2023年4月以降、医薬品が原則1人1個までと制限されたためです。
 さらに若年者に対しては、販売時に名前や年齢などを確認するようになっていますが、大きな効果を上げるまでには至っていません。


《参考文献》
日経新聞Web版:2024年4月7日、読売新聞オンライン:2023年10月4日、朝日新聞DIGITAL:2023年12月15日、NHK NEWS WEB:2023年11月22日、他

 

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◆薬は、体の防御反応を阻害する

 

 なぜ、多くの若者がODをするのか、こちらの図をご覧ください。下記は、ある風邪薬に使われている成分とその作用です。

風邪薬に使われている成分と作用



※図にある“麻薬性”というのは、過量摂取を続けると依存を引き起こす可能性があるものを言い、“非麻薬性”というのは、中毒作用のないものを言う。

 表の上から2番目のジヒドロコデインと、3番目のノスカピンは、どちらもアヘンから製造されています。また、一番下のメチルエフェドリンの原料は、覚醒剤の原料にもなっているエフェドリンです。 
 一方、アヘンには強い鎮痛作用があることから、多くの薬が製造されているのも事実です。エフェドリンも、麻黄(マオウ)という漢方薬から抽出されており、喘息の治療薬としても使われます。

 

 麻薬か、そうでないかを決めるのは濃度であり、麻薬取締法などにおいて、濃度が1%以下のものは家庭麻薬に分類され、法律上の麻薬ではないと定義されています。まさに前回、お伝えした「毒か、そうでないかは使用量による」です。
 ところが、「成分を薄くしたのであれば、たくさん服用すればいい」というので、流行り出したのがODなのです。

 ODを行う人には、それぞれ事情があるのだとは思います。けれど、安易な道を進んでも、決して良い結果にはなりません。
 それはODに限らず、病気に対する考え方も同じです。

 

 病院も、市販薬も、常に即効性を求められます。けれど本来、病気になった体が治癒するには時間がかかるものです。
 薬は、確かに重症化を防ぐ役割もありますが、反面、体の防御反応であるはずの熱や咳、鼻水などの症状を抑えてしまうという意味で、かえって完治まで長引かせてしまう可能性があります。

 

 ですから、最も大事なのは、まずは病気にならない体をつくることです。健康であれば、そもそも薬に頼る必要などないわけですから。

 

サーチュインクリニック大阪 院長 鈴木嘉洋


《参考文献》
埼玉県薬剤師会雑誌2005 Vol.31 No.5、全日本民医連HP、他

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